非上場会社ではそれまでの出資や事業上の関係性、又はオーナーでもある社長の人的関係から株式の譲渡が行われることが少なくありません。
ここで問題となるのが、譲渡価格をどのように考えるかということ。特に税法上の取扱いを正しく理解していなければ思わぬ税務リスクを抱えてしまうことになります。
今回は、非上場株式の法人税法上の評価について整理、その際影響がある「同族株主」について解説します。

税法上での非上場株式の評価について理解すべきこと

税法上の取扱いを理解する必要性

ビジネスや商いにおいては、基本的に当事者同士の合意によって取引が成立するのが大原則です。これは民法にも規定されています。

従って、株式を譲渡する時にも「いくらで譲渡(売却)するか」ということも当事者で自由に決めても問題無いことになります。

ですが、これはあくまでも当事者の視点から考えた場合の話で、このような当事者の裁量による自由な取引が無条件に認められてしまうと問題があるのが、税金の観点です。

皆さんも良く耳にしたことがあるかもしれませんが、税金のルールを定めた税法の考え方の根底にあるのが「担税力に応じた課税」と「課税の公平性」です。

特に後者の「課税の公平性」の考えると、同じ性質の取引であるのに、当事者によって取引から生じる税金が変わってしまうと税金の公平性が担保されません。

このため、取引によってどのように税金計算や評価を行うかを定めるために税法があり、これは今回のテーマである「非上場株式の譲渡」も同様です。

非上場株式の譲渡(売却)取引についても、例えば時価(実質的に取引において相当と考えられる価値)よりも著しく低い価格で譲渡が行われてしまうと、株式の売却益が小さく計算されてしまい、納めるべき税金が少なくなってしまうため、税法上、非上場株式の評価に関する規定が定められているのです。

下記の「法人税基本通達 2-3-4」の規定をご参照ください。

2-3-4 法人が無償又は低い価額で有価証券を譲渡した場合における法第61条の2第1項第1号《有価証券の譲渡損益の益金算入等》に規定する譲渡の時における有償によるその有価証券の譲渡により通常得べき対価の額の算定に当たっては、4-1-4《市場有価証券等の価額》並びに4-1-5及び4-1-6《市場有価証券等以外の株式の価額》の取扱いを準用する。

簡単に要約すると、下記のようになります。

株式をタダ、もしくは安く譲渡した場合、税法上考える株式の妥当な譲渡価格(=時価)は、「法人税基本通達4-1-4から4-1-6」の規定を準用して、株式の価額を評価する。(具体的な規定内容は後述)

このように、もし非上場株式の譲渡価格が税法上定められた当該非上場株式の評価額とあまりにも乖離していると判断される場合、税法上は実際の取引額とは異なる時価での取引として課税がされる可能性があります。

非上場株式の評価に「正解」は無い

非上場株式の譲渡が時に問題となるのは、上場している会社の株価のように誰から見ても同じで客観的な価格が無いためです。

先ほど、非上場株式の評価方法について税法上の定めがある、とご説明しましたが、評価方法や算定方法がある程度明確に定められているものの複数の方法が認められており、また算定方法にも解釈の余地が残されているため、評価額に単一の正解というものはありません。

また、税法上の定めがあるからといってそれに縛られてしまうと、当事者間の取引の自由が阻害されてしまうことになります。

もちろん税法上の取扱いを完全に無視することは税務リスクを高めてしまうため危険ですが、取引価格を決定する際の一つの基準として柔軟に考える姿勢も重要だと考えます。

税法上の非上場株式の評価(譲渡人=法人の場合)

原則的な考え方

ここからは、法人が所有している非上場株式を譲渡するケースで解説いたします。

このケースにおいて、譲渡人である法人が保有している(=譲渡しようとしている)非上場株式の評価は「法人税基本通達 4-1-5、4-1-6、9-1-13、9-1-14」にて規程されています。

4始まりは株式評価益の時の規定、9始まりは株式評価損の時の規定ですがどちらも類似した内容になっているため、ここでは9始まりの規定を用いてご説明します。

9-1-13 市場有価証券等以外の株式につき法第33条第2項《資産の評価損の損金不算入等》の規定を適用する場合の当該株式の価額は、次の区分に応じ、次による。

(1) 売買実例のあるもの

省略

(2) 公開途上にある株式(省略)で、当該株式の上場に際して株式の公募又は売出し(省略)が行われるもの((1)に該当するものを除く。)

金融商品取引所の内規によって行われる入札により決定される入札後の公募等の価格等を参酌して通常取引されると認められる価額

(3) 売買実例のないものでその株式を発行する法人と事業の種類、規模、収益の状況等が類似する他の法人の株式の価額があるもの((2)に該当するものを除く。)

当該価額に比準して推定した価額

(4) (1)から(3)までに該当しないもの

当該事業年度終了の日又は同日に最も近い日におけるその株式の発行法人の事業年度終了の時における1株当たりの純資産価額等を参酌して通常取引されると認められる価額

上記を簡単にまとめると、下記のようになります。

POINT①過去6か月以内に売買実績があるものはその価格
②上場株式の場合はその株価
③保有している株式の同業他社等類似する株式の株価
④直近の事業年度末時点の純資産価額等

流通する市場が無い非上場株式の場合、③か④が評価方法ということになりますが、③は同業他社で規模も含めて類似している会社の参考株価などは実務的に取得が困難です。

したがって、ほとんどの場合④の方法によることになります。

ここでも、④は純資産価額等を「参酌して」算定する、としており、純資産の価額を基本とするものの、そこに調整を加えて妥当な価額を算定することを求めています。

評価方法に関する特例

一方、「法人税基本通達 9-1-14」には原則的な評価方法に代えて「特例的に認められる」方法が定められています。

9-1-14 法人が、市場有価証券等以外の株式(9-1-13の(1)及び(2)に該当するものを除く。)について法第33条第2項《資産の評価損の損金不算入等》の規定を適用する場合において、事業年度終了の時における当該株式の価額につき「財産評価基本通達」(以下9-1-14において「財産評価基本通達」という。)の178から189-7まで《取引相場のない株式の評価》の例によって算定した価額によっているときは、課税上弊害がない限り、次によることを条件としてこれを認める。

(1) 当該株式の価額につき財産評価基本通達179の例により算定する場合 (同通達189-3の(1)において同通達179に準じて算定する場合を含む。)において、当該法人が当該株式の発行会社にとって同通達188の(2)に定める「中心的な同族株主」に該当するときは、当該発行会社は常に同通達178に定める「小会社」に該当するものとしてその例によること。

(2) 当該株式の発行会社が土地(土地の上に存する権利を含む。)又は金融商品取引所に上場されている有価証券を有しているときは、財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、これらの資産については当該事業年度終了の時における価額によること。

(3) 財産評価基本通達185の本文に定める「1株当たりの純資産価額(相続税評価額によって計算した金額)」の計算に当たり、同通達186-2により計算した評価差額に対する法人税額等に相当する金額は控除しないこと。

非上場株式は原則的には先ほどご紹介した「法人税基本通達 9-1-13」に基づく方法で評価することとされていますが、「法人税基本通達 9-1-14」では一定の条件の下「財産評価基本通達」に基づく評価を認めている、という建付けになっています。

「財産評価基本通達」というのは相続税の評価に当たって、相続財産の評価方法を定めたものです。

つまり、「特例的に相続税の方法に基づいて評価しても良いですよ」ということになります。

財産評価基本通達による評価方法

それでは「財産評価基本通達」による評価方法とはどのようなものでしょうか。

ここではその概要だけご紹介します。

①保有している株式の会社の規模に応じて評価する(原則的評価方式)

保有している株式の会社を、その純資産価額、従業員数、取引額に応じて「大会社」、「中会社」、「小会社」に区分します。

大会社に区分される場合、その株式は「類似業種比準方式」で評価されます。

その名の通り、類似業種の株価を元に「配当金額」、「利益金額」、「純資産価額(簿価)」の3つの金額を比較して評価する方法です。

小会社に区分される場合、その株式は「純資産価額方式」によって評価されます。

これは相続税法における資産負債の評価額から、相続税法による評価差額に対する法人税法等の金額を控除した金額(純資産)で評価する方法です。

中会社に区分される場合は、大会社と小会社の折衷方式により、「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」のそれぞれの金額に一定割合を乗じて評価します。

②特例的な評価方式

株式の保有者が「同族株主」に該当しない場合は「配当還元方式」で評価することが可能です。

これは1年間の配当額から一定割合(10パーセント)を還元して評価する方法です。

非上場株式の評価に影響がある「同族株主」を考えよう

「同族株主」とは

以上、ざっと法人税法上の非上場株式の評価方法を解説してきましたが、非上場株式の譲渡の際に考慮しておきたいのが譲渡人が「同族株主」に該当するかどうか、という点です。

「同族株主」

課税時期における評価会社の株主のうち、株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が評価会社の議決権総数の30%以上(株主の1人及びその同族関係者の有する議決権の合計数が最も多いグループの有する議決権の合計数が50%超である場合には、50%超)である場合におけるその株主及びその同族関係者

なぜ「同族株主」に気を払う必要があるかというと、先ほどご紹介した「評価方法に関する特例」での評価方法が変わってくるからです。

どの部分が変わってくるかというと、以下の2点です。

POINT・株式の保有者(株主)がその会社にとって「中心的な同族株主」に該当する場合、その株式の会社は「小会社」として評価する(先ほどご紹介した「法人税基本通達 9-1-14」の(1))
・「同族株主」に該当しない場合は「特例的な評価方式」により配当還元方式での評価が可能になる

「同族株主」が株式評価に与える影響

それでは、先ほど指摘した2点の影響項目がどのように影響してくるのか。

一般的には、株式の保有者が「同族株主」に該当した場合の方が株式評価を行う上での株価は高く算定されます。

1点目の影響項目は下記の内容でした。

株式の保有者(株主)がその会社にとって「中心的な同族株主」に該当する場合、その株式の会社は「小会社」として評価する

これはどういうことかと言うと、保有している株式の会社規模に関わらず、「小会社」とみなして評価計算を行うことになるため、「純資産価額方式」での評価が強制されることになります。

先ほどご紹介した大会社・中会社・小会社の評価方法は、大会社に近づくほど「類似業種比準方式」の割合が大きくなり、小会社に近づくほど「純資産価額方式」の割合が大きくなります。

ここで、「純資産価額方式」は「類似業種比準方式」よりも高く評価額が算定される傾向にあるのです。

2点目の影響項目も同様です。

「同族株主」に該当しない場合は「特例的な評価方式」により配当還元方式での評価が可能になる

配当還元方式は特例的な評価方式になるのですが、この方法で算定された評価額は原則的な評価方式にょる評価額よりも低く算定される傾向にあります。

なぜ「同族株主」に該当するか否か、でこのような影響があるかというと、同族株主というのは先ほどご紹介した定義の通り、その会社に深く関与している、又は実質的に支配していると考えられるため、このような株主が持つ株式というのは「支配権プレミアム」と言って会社を支配していることに対する価値が上乗せされていると考えるためです。

非上場株式の譲渡・取得は保有者の株主属性を考えよう

これまでのお話を総括すると、下記の通りです。

POINT・非上場株式の取引の時に税務上算定される「時価」は、保有者の株主属性で変わってくる
・「同族株主」が保有する株式は、それ以外の株主が保有している場合よりも高く算定される傾向にある

取引の当事者として、例えば自社の株主から株式を買い取る場合や他社と今後の協力関係の構築のため、他社の株主から株式を譲渡してもらう場合など取引の交渉にも役立ってくると思いますので、ぜひ上記事項は念頭に入れておくと良いでしょう。