有償支給の会計処理・仕訳、税務(消費税・法人税)上の取扱いと実務上の検討事項について
製造業のお客様で、会計システム統合やIFRS導入において何かと論点に挙がるのが有償支給取引です。
自動車産業やその他精密機械メーカー等、一般的となっている有償支給について改めて収益認識基準に基づく会計処理の考え方と具体的な仕訳例、税務上(消費税・法人税法上)の留意点、そして実務上の影響についてまとめて解説いたします。
目次
有償支給取引とは?
取引の概要
有償支給取引というのは、ある製品を造っている製造メーカーが、その製造工程の中で利用する部品や原材料等の加工を外部の会社に委託する際に、その部品や原材料等(以下、「支給品」)を有償、つまりタダではなく対価をもらって加工委託先に支給し、委託先で加工が完了したものを再度仕入れる一連の取引のことを言います。
ただ、同じ有償支給と言っても取引の形態は業界や慣習、加工委託先との関係によっても異なり、例えば
・加工委託先への支給品について、委託先の加工完了後に買取義務があるか
・加工委託先へ支給する際に、原価に一定の利益を上乗せして支給しているか
・支給品に対する代金の回収は、加工委託先から仕入れた加工済み品の支払代金との相殺で行われているか
などで取引の実態が微妙に異なってきます。
そして、この取引条件の違いによって会計処理や消費税法上の取扱いが異なってくるだけでなく、実務上においては支給品の管理という観点でも大きな影響が出てくることになります。
なぜ有償支給を行うのか?
そもそもなぜ有償支給という取引が行われるのか、そこには古くからの慣習によることもあるかと思います。
ですが、例えば支給元の製造会社の方が規模が大きく、大量に支給品を調達することで、加工委託先が自分たちで支給品を調達して製造会社に売り渡すよりも安価で支給品を調達できる、ということがあるかと思います。
また、先ほど解説した有償支給における代金の決済方法が相殺による場合、加工委託先にしてみれば製造会社から支給品を買い入れているとはいえ代金の決済が相殺なので、通算すれば加工委託先の加工賃相当分、つまり売上相当額の代金のみの回収になりファイナンスの観点からも支出を抑えることができると言えるでしょう。
一方の委託する製造会社の立場にしても、有償で支給することで加工委託先での在庫管理責任を明確に持たせることができたり、加工先が無駄に支給品を仕損することを防止することにもつながります。
有償支給取引の会計処理
収益認識基準による有償支給取引の会計処理
「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第 29 号)が2021年4月1日以後開始する事業年度から全面的に適用となりました。
この会計基準によって、有償支給取引についても下記の通り適用指針にその取扱いが明記されています。
収益認識に関する会計基準の適用指針
130. 企業が、対価と交換に原材料等(以下「支給品」という。)を外部(以下「支給先」という。)に譲渡し、支給先における加工後、当該支給先から当該支給品(加工された製品に組み込まれている場合を含む。以下同じ。)を購入する場合がある(これら一連の取引は、一般的に有償支給取引と呼ばれている。)。有償支給取引に係る処理にあたっては、企業が当該支給品を買い戻す義務を負っているか否かを判断する必要がある。
有償支給取引において、企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合、企業は当該支給品の消滅を認識することとなるが、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しない。
一方、有償支給取引において、企業が支給品を買い戻す義務を負っている場合、企業は支給品の譲渡に係る収益を認識せず、当該支給品の消滅も認識しないこととなるが、個別財務諸表においては、支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識することができる。なお、その場合であっても、当該支給品の譲渡に係る収益は認識しない。
適用指針によれば、上記の通りです。
・買い戻し義務がある場合、支給品は在庫として認識するが、帳簿から落とすこともできる
・買い戻し義務がない場合、支給品は支給時に在庫から落とす
なぜこのような処理が取り決められたか、会計処理の背景にある考え方は後述いたします。
まずは具体的な会計処理を確認しながら見ていきたいと思います。
支給時に利益を上乗せしない場合
それでは有償支給取引の会計処理について見ていきましょう。
まず、支給時に利益を上乗せしない場合の会計処理は以下の通りです。
①支給品の加工委託先への支給時(1個100円の原価を100円+税で支給した場合)
(借方)未収入金 110 (貸方)有償支給売上高 100 (貸方)仮受消費税 10
(借方)有償支給売上高 100 (貸方)仕入 100
②加工委託先から、加工品の仕入れ時(1個120円+税で仕入れた場合)
(借方)仕掛品 120 (貸方)買掛金 132 (借方)仮払消費税 12
③支給代金と相殺して決済を行う時
(借方)買掛金 132 (貸方)未収入金 110 (貸方)現金及び預金 22
後ほど消費税の取扱いについてもご説明するため、あえて上記の通り消費税についても付記するとともに、「有償支給売上高」という勘定科目を使用しています。
まず、有償支給売上高は計上されているものの、借方と貸方に同額計上されており結果的に収益は認識されません。
また、上記の仕訳例では「支給品を支給時に在庫から落とす」方法での処理を採用しています。
もし買い戻し義務を有する取引で、自社の在庫として支給品を認識した方がより適切と判断される場合は、①の仕訳に下記の仕訳が追加されます。
(借方)材料 100 (貸方)有償支給取引に係る負債 100
なぜ負債が計上されるかというと、支給する一方で買い戻し義務が発生するため、支給品の買い戻し義務を負債として認識する必要があるためです。
さらに、②においては支給品は在庫として計上されているので、下記の仕訳を追加して仕掛品を負債と相殺します。
(借方)有償支給取引に係る負債 100 (貸方)仕掛品 100 (借方)仕掛品 100 (貸方)材料 100
買い戻し義務が発生する場合、収益認識の考え方に従えば、支給品を加工委託会社に提供した段階では当該支給品に対するコントロール(所有権含め、支給品を自由に処分等取り扱える権利)が支給先に移転したわけでは無いため、支給元の製造会社が引き続き在庫として認識することが適当と考えられます。
一方で、実務上は支給先の加工委託会社が支給品の在庫管理(棚卸等)を行っていることも多く、このような実態を踏まえた場合に会計処理に基づいて実務上の取扱いを変えることは多大な負担になることが考慮され、買い戻し義務が発生する有償支給取引であっても、在庫を移転(引落し)することが認められています。
支給時に利益を上乗せする場合
次に、支給時に一定の利益を上乗せして支給するケースについても見ていきましょう。
①支給品の加工委託先への支給時(1個100円の原価を110円+税で支給した場合)
(借方)未収入金 121 (貸方)有償支給売上高 110 (貸方)仮受消費税 11
(借方)有償支給売上高 110 (貸方)仕入 100 (貸方)有償支給取引に係る負債 10
②加工委託先から、加工品の仕入れ時(1個120円+税で仕入れた場合)
(借方)仕掛品 120 (貸方)買掛金 132 (貸方)仮払消費税 12 (借方)有償支給取引に係る負債 10 (貸方)仕掛品 10
③支給代金と相殺して決済を行う時
(借方)買掛金 132 (貸方)未収入金 121 (貸方)現金及び預金 11
先ほどのケースと異なる点は、支給時に上乗せした利益10の取扱いです。
収益認識に関する会計基準では有償支給取引において支給品の供給時に収益を認識しないことになっているため、上乗せした利益も含めて収益は取消し、利益相当分は負債として認識します。
この負債をどう考えるか、ですが、収益認識に関する会計基準では、支給先に支給品を提供して在庫を落とす場合でも、その後加工された支給品を仕入れて最終製品を製造し、顧客に販売する時と合わせて売上が2回計上されることは望ましくないということから、最終顧客への販売までを一体の取引と考えることに重きを置いていると考えられます。
そうなると、加工委託先への支給時に上乗せされた利益も最終顧客への販売が完了するまで、販売側である製造会社が負うべき義務の履行が完了するまで負債として認識するものと考えられます。
そして当該負債は、加工された支給品を仕入れた(買い戻した)段階で仕掛品と相殺することでいったん認識が中止され、これによって仕掛品から内部利益が控除されることになります。
有償支給取引の法人税法・消費税法上の取扱い
消費税法上の取扱い
有償支給取引の会計処理について、ご理解頂けたところで税務上の取扱いについて1点注意事項を解説します。
それが消費税の取扱いについてです。
これまで見てきた通り、有償支給取引において加工委託先に支給品を提供する際に収益は認識されません。
収益が認識されないため、消費税上の課税関係も発生しないものと思われるかもしれませんが、消費税上は、支給元の会社が「自己の資産として管理している場合」を除いて、「原材料等の支給は、対価を得て行う資産の譲渡に該当する」ものとされ、したがって課税取引として認識されることになります。(消費税法基本通達 5-2-16)
従って、買い戻し義務がある取引の場合でかつ、自社の在庫として帳簿上も記録している場合を除き、会計処理上は売上や収益が認識されないとしても、課税取引として仮受消費税を認識する必要がある、ということになります。
法人税法上の取扱い
消費税法上の取扱いについては通達に明文化された規定があるのですが、法人税法上は特にこのような通達はありません。
消費税法に則して考えた場合、支給品に関する所有権の移転が実質的に加工委託先に移転されているのか、という点が考え方の1つの基準になると思われます。
仮に、実質的に所有権の移転が成立しており、在庫責任からも解放されており加工委託先への支給が「単独の取引」としても成立し得るのであれば、法人税法上も収益の認識を認め、税務申告書上で調整を行うということも考えられます。
有償支給の実務上の検討事項
これまで見てきた通り、有償支給取引においてはまず収益の認識は認められないことは「収益認識に関する会計基準」の施行により明確になりました。
一方で消費税法上の取扱いと支給品(在庫)管理は整合しておく必要があると考えられます。
例えば、有償支給取引について下記のようなシステム運用が行われている場合を考えてみます。
✔支給品は個別に形式番号が振られ、有償支給先への支給は購買システム上での出荷処理で行われる
✔出荷処理とともに支給品は在庫システムからは落とされるものの、工程ステータスが「有償支給先」に変換される
✔支給品は標準単価の他、有償支給先への支給単価が登録されている
✔有償支給先から加工された支給品を検収し、購買システム上で受入れ処理を行うことで、支給品の工程ステータスが「有償支給後」に変換される
✔購買システム上、支給品の形式番号により当初支給時の支給単価と、加工後の受入れ単価が突合され、支払金額から有償支給高が控除される
✔月次で購買システムから「支払通知書」と「有償支給控除一覧表」が出力され、有償支給先に送付される
上記のような運用の場合、有償支給時において支給品は在庫から落とされているため、消費税法上は課税取引として取り扱う必要があります。
したがって、基幹システムにより購買システムと会計システムが連動している場合、支給品の出荷処理によって仮受消費税が計上される仕組みを作っておく必要があると考えられます。
これから基幹システムを導入して有償支給取引を管理される場合、システム統合等で取引の見直しを行っている場合、もしくはIPOなどで有償支給取引の会計処理と管理方法を見直される場合は、くれぐれも以下の3点を念頭に置かれて検討されると良いかと思います。
・消費税の取扱いと記帳方法
・決済方法(相殺する場合も、システムで組む相殺のロジックをどうするか)
・基幹システム上で行う自動仕訳の処理ルールの設定